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2013年10月

2013年10月29日 (火)

上田の支那大根

 昔、上田の駅前が再開発される前、共同ビルの一階にあった焼肉屋によく通った。
 その店で、つまみに大根を出した。短くて青く、薄切りにして、味噌を添えて出すのである。「ここらじゃ支那大根ていうんです」と店のおやじさんが言った。
 珍しい品種だと思って、東京へ帰る時、少し駅前の八百屋で買った。家の近所の「東坡」という中華料理屋の旦那に見せたら、「あれ、中国の大根じゃない」と言った。

2013年10月28日 (月)

金平糖

 N沢君のおばあさんは子供が好きで、友人のK君がゆきちゃんという小さい娘を連れて遊びに行くと、必ず金平糖や雛あられを紙に包んでくれた。
 ゆきちゃんは可愛らしいので、よく人が何かをくれる子供であった。

2013年10月27日 (日)

郷緑温泉の鼈

 一度、A井氏に誘われ、氏の運転するベンツで岡山の郷六温泉へ行ったことがある。
 ここは湯原のそばの一軒宿で、岩の間から私好みのぬるい、綺麗なお湯が滾々と湧く。
 その日、客は他におらず、私達は四時頃から、炬燵で酒を飲みながら鼈料理を楽しんだ。最初に血や内臓が出て、鍋の方は、あれは何だったか忘れたが、香りの高い青菜が入っていて、じつに良かった。

2013年10月25日 (金)

原宿のむかご

 昔住んでいた原宿の家は長い私道の奥にあった。
 その私道の中程の網塀に、隣家の庭に生えている自然薯の蔓がからまり、それに小さな、灰褐色の、丸っこい塊がついている。
 むかごであった。
 笊に集めて茹でてみたら、青臭かったが、食べられないことはなかった。野生の物なので香りが強かったのだと思う。

2013年10月23日 (水)

アケビの皮

 紫色のアケビの皮はふっくらしていて美味しそうだが、生では苦くて食べられない。山形の人はこれをよく味噌炒めにする。味も歯ごたえも茄子に近いが、ほのかな酸味と苦味がある。
 微温湯温泉では肉を挟んで天麩羅にしたものを出したが、これも良かった。

2013年10月22日 (火)

「日の出食堂」の馬のもつ煮

 以前、田沢温泉に逗留した時、退屈になると時々車で別所温泉へ行って、湯に入り、「日の出食堂」で一杯飲んだ。
 ここは蕎麦もあるが、馬のもつ煮が酒の肴に良かった。

2013年10月20日 (日)

名護の山羊屋

 昔、O氏と車で沖縄一周旅行をした時、名護の大きなガジュマルの樹のそばにある「名護山羊料理店」に入った。もう大分酒を飲んだあとで夜は更けていたが、山羊屋には煌々と明かりがともっている。
  その日はエイサーの日だった。
  私たちはひーじゃ刺と山羊汁を頼み、この夜最後の泡盛の水割りを飲んだ。

2013年10月18日 (金)

瀬見の雛菓子

 桃の節句の頃、瀬見温泉で郵便局へ行った帰り、「奥山菓子店」に入ったら、カウンターに鯉の切身が置いてある。
 ギョッとしたが、よく見ると、あんこでこしらえた菓子である。この地方の雛祭りの供え物で、他にも鯛だの、鶴だの、鮭の切身だのがある(これは焦げ目までついている。)。
 買って帰って、宿でM村君に見せたら、感心することしきり。鯉の切身の角度が単なる写実を越え、様式美に達しているというのであった。

2013年10月16日 (水)

「若松」の焼きおにぎり

 神楽坂毘沙門天の向かいの横丁を軽子坂の方へ入って、左に折れると、「若松」という店があった。年老った女将さんが一人でやっていて、居酒屋のようにカウンターで一杯飲ませるが、看板は焼きおにぎりだった。上等の米を焚いて、握って、醤油をつけて目の前で焼く。焦げてパリパリする一歩手前の焼き加減が良かった。
 女将さんは文楽が好きで、楽屋にもおにぎりを届けていたようだが、火事で焼けてしまった。

2013年10月14日 (月)

伊賀の堅焼き煎餅

 倉阪鬼一郎氏の親戚が伊賀上野で和菓子屋さんをやっている。
 昔、鬼一郎氏がまだ東京に下宿していた頃、その親戚から送られた堅焼き煎餅を幻想文学会の集まりに持って来た。厚くてお盆ほどもある偉大な煎餅で、石のように硬い。
 M田君が齧ったら、歯が欠けた。
 「齧っちゃ駄目だよ」と鬼一郎氏はあわてて言った。「金槌で小さく欠いて、しゃぶりながら、唾で柔らかくして食べるんだよ。これは伊賀の忍者の非常食なんだ。服の下に入れておくと、手裏剣も通らないんだ」
 「それを先に言ってくれよ」とM田君はボヤいた。

2013年10月12日 (土)

「奴鮨」のなめろう

 伊東温泉のキネマ通りに「奴鮨」という寿司屋があった。木下杢太郎記念館を見たあと、昼食を食べたに入ったら、土地のお婆さん連中が四方山話をしていた。
 この店のなめろうは島唐辛子が入っていて、仲々良かった。

2013年10月10日 (木)

シマダイの煮つけ

 子供の頃、鏡が浦の館山桟橋の突っ先へ行くと、水の中には色々な魚が泳いでいた。箱河豚もいた。ベラのような魚もいた。一番沢山いたのは石鯛の子のシマダイだった。
 ある晩、館山のおじさんとそこで釣りをしたら、シマダイが何匹も釣れた。煮つけにしてもらったら、小さい魚だが、たいそう美味だった。

2013年10月 8日 (火)

近刊案内・中華料理秘話 泥鰌地獄と龍虎鳳

こんばんは。南條竹則城主の新刊案内です。
『中華料理秘話 泥鰌地獄と龍虎鳳』(ちくま文庫)が出ます。
10月9日発売です。何卒よろしくですにゃ(小三毛)

【発売日】2013年10月9日
【税込定価】735円
【文庫】256ページ
【内容紹介】
泥鰌が豆腐に潜り込むあの料理「泥鰌地獄」は実在するのか?  「龍虎鳳」なるオソロシげな料理の材料とは?  文庫書き下ろし、至高の食エッセイ。

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2013年10月 7日 (月)

月湯女温泉の蝮

 蝮を初めて食べたのは、新潟の月湯女温泉でだった。幻想文学会の会長に率いられ、わざわざそのためにローカル線やバスを乗り継いで行ったのである。
 食堂は広い三和土に続く座敷で、蝮を頼むと、亭主が生きたのを籠から出して見せてくれた。丸焼きにしてくれたが、味は甚だ良いけれど、どうにも硬くて骨ばかりだと思った

2013年10月 5日 (土)

「ろくつぼや」のはりはりうどん

 大阪の日本橋の近くに宿をとり、町をブラブラ歩いていたら、「はりはりうどん」と書いてあるので、古びたうどん屋にはいってみた。「はりはり」は汁うどんだが、水菜を沢山とさらし鯨の乾したのを入れる。旨い物だ。

2013年10月 3日 (木)

「鳴子飯店」のトルコライス

 鳴子郵便局がある通りに「花園旅館」という古びた旅館があった。かつて「男はつらいよ」のロケをしたこともある。私は一度だけ風呂に入ったが、良い硫黄泉だった。
 この宿屋の向かいあたりに「鳴子飯店」という中華料理屋がある。一度、ここで「トルコライス」を食べた。注文してから時間がかかり、電車に乗り遅れそうになったが、オムライスのようで、中にトンカツが入っている。私はギョッとした。なるほど時間がかかるはずだと思った。

2013年10月 2日 (水)

ちくわぶ

 ちくわぶというものは子供の頃から嫌いで、どうしてあんなものを食べるのかと思ったけれど、最近味がわかってきた。この物は、バターのようにトロトロになるまで煮なければならぬ。生煮えは何の取柄もない。
 南千住の「鶯酒場」のおでんに入っているちくわぶは、長く煮た時は美味しい。 
 「中里」のもつ煮込みはもつを味噌だけで煮るが、時によってちくわぶを加える。これは相当に旨い。

2013年10月 1日 (火)

M家の古酒

 酒というものは条件が揃うと、思いのほか長持ちする。
 M君の信州の実家が引っ越しをした時、縁の下に「岩波」という酒をしまい込み、それきり四十年間忘れていた。ある時ひょっと出て来たので味わってみると、美味い。M君はそれを東京へ持って来て、わたしも少しお裾分けにあずかった。酸味や臭みはなく、まろやかな飲み口だった。
 二千年前の古墳から出てきた酒が香り高かったという話も、嘘ではないような気がする。

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